あちらこちらへと最近は東京に足を伸ばすことも増えましたが、ご近所の方のお支度というのが、元々の需要でしたので、お得意様の、電話口での懐かしいお声をきくと、温かく有り難い気持ちでいっぱいになります。最初は喪服のお支度のお問い合わせに始まり、ご子息様のご結婚、お孫さんの七五三のお問い合わせなど、時の流れの早さと、お電話口のご様子から仲のよい微笑ましいご家族様の姿が浮かんできます。勿論必ずしも私が着付けを担当することができなかったのですが、優れた着付け師の方々に助けられてきました。また、ご依頼主様は、人生の手本にしたいほどに、優しく素晴らしい方で、歩んでこられた道、これから行かれる道を思う時、着物の持つ不思議な縁や、力を感じずにはいられません。

ある方は、七五三の時にお母様として着た着物を数十年振りにお出しになり、帯や帯揚げ帯締めを落ちついたお色目に変えてお着付けいたしました。嫁がれた時に、肩身の狭い思いをさせないようにと、持たせて下さったそうです。お孫さんの高校卒業にお祖母様を囲んで皆様で、お撮りになる。明るい若草色の無地には、可愛い可憐な刺繍。不思議と何の違和感もなく、お似合いになるのです。ご家族様を育んだ店の食堂の中でお着せしましたが、店は何ともいえない温もりがあり、商店街はかつての賑わいは無くなったとおっしゃっていましたが、この温もりではぐくまれていたものに思いを馳せます。

長い時を掛けてつちかわれたものと、若く新しい時代を生きる力。その融合こそが、新たに何かを生み出すことになるのではないか。出てきそうでまだ出てこないけど。(笑)

少し考えてみたいと思います。