長いことこの仕事を続けて来ましたが、色々とあり、時折続けていくことが、困難に思えることもあります。支えてくださる方が居て、時にお客様に支えられて、固い信頼関係を結んでいって、少しずつ進むことができる。決して私だけの力で成し遂げられることはありません。つつがなく、仕事をしていただけるように、環境を整えていくのも、私の役割になるのでしょう。

命をかけて生み出される一本の糸から始まり、縦と横の糸により織りださせる布の世界は、人の一生にも似ています。

私の、友人のお母様は、人生の旅立ちの時に、一枚の着物を掛けてほしいと、エンディングノートに書き記していたといいます。葬儀までの間がなく、そのノートの存在に気づいたのは、葬儀を終えた後だったとか。形見である着物を纏って旅立てば、お母様(友人のお祖母様)に直ぐに見つけていただける。そう思ってのことだったらしいのですが、着物を棺の中に入れることが出来なかったのです。

「その、着物が無くても直ぐに見つけてくださるわよ。心配いらないわよ。母娘だからね。」

「そうね。だから、私が旅立つ時にその着物を掛けて貰おうと思って。」

亡くなる直前まで、日常生活を普通に送り続けたしっかりもののお母様の元に、友人が駆け寄っていく姿が浮かんできて、微笑ましい光景だと思ってしまいました。

着物の結ぶ縁というものは、人の数だけ、着物の数だけあるもので、生まれてはやがて消えゆく宿命にある一生を彩る美しきもの。

私はその美しく不思議な縁を、今後も結んで行けたなら幸いに思います。