私が着物に魅せられたきっかけになったのは、

志村ふくみさんという染色作家の、あるエッセイなのですが、

桜の花の色は、花びらから染めるのではなく、桜の枝から染められる

しかも、花が咲く前の、枝から染められると聞いて、震えるような感動を覚えたことを

記憶しています。この桜の木が秘めた色を、いつか染めてみたい。

長いこと、それこそ、20年以上

そう思っていましたが、この度 知り合いのお宅の枝垂桜を切らせていただけるということで、

その願いが叶いました。

灰を煮出すところから準備をし、枝打ちをして、細かく切るのに半日。

山盛りあった枝を大鍋に入れて、さらに沸騰させないように気をつけながら、2、3日かけて

染め液を作ります。知人が、桜を提供してくれたその工程の多くを担ってくれたため、

そこまで出来たのですが・・・・

出来上がった染液を見て、先生が一言つぶやかれました。

「もしかして、桜色ではなく、黄色に近い色になるかもしれない。」

「そうですか・・・・それもサクラの色なのかもしれませんね。」

そういいながらも、サクラを提供し、手間暇掛けてくれた友人にすまないような気がしました。

「そういうこともあるかと思って・・・」と先生が取り出されたのは・・・なんと

ペットボトルに入った桜の花の染め液でした!ときめくような美しい赤い色をした染液!!

「通りがかりに、サクラを切っていたので、分けていただいて作っておきました。」

さらっとおっしゃったのですが、それも大変な手間が掛かっているものを、

提供してくださったのです。本当にそのお心がありがたく。

二つのサクラの染めをしてみることになりました。

部屋には、サクラの甘いほのかな香りに満たされて、至福の時間。

思い思いの白生地を選んで、染液に浸すときのときめき。

同じタイミングで染めていても、全て違う色に染まるのです。

微妙に黄色がかっていたり、淡い色であったり、一つ一つが違うのです。

そして、どの色も美しい。愛おしい。お湯に入れて黄色の色を抜いていき、水に浸せば

色が変わる。部屋に干せば、花が咲いたよう。乾けばまた色が変化する。

そして、その色は永遠ではなく、時と共に色が褪せていく。それも、美しい。

桜の木は、さらに驚きを私たちに、もたらしてくれました。

染まらないかもしれない・・・そういわれた枝垂桜を染めてみたら、

その黄色い染め液からは想像できなかったのですが、

先に染めたものより、美しい桜の色が染まったのです。

これに、本当に驚かれたのが先生で、こんなにも美しい色を秘めていたのだと

先生にも想像がつかなかったのです。

冷えていた指先の隅々まで血が通うような感動を覚えました。

同じ桜染めでありながら、様々な色をして揺れる布たち。熟練の技を持ってしても、

その色は想像を超え、命の輝きを私たちに見せてくれる。

先生は、不登校の親御さんに対する染色教室もされていると聞きましたが、

一つ一つ、本当に違う染めを見ていると、同じ鍋から、不思議なくらいに違う色に

染まる布を見つめていると、子育てに通じるものが多くある様な気がするのです。

私は、私の色でいい。貴方は、貴方の人生の色を染めていって欲しい。

どれも、美しい命の色なのだから。かつて、四八茶百鼠と言われるような、

豊かな中間色の世界に居た日本人の豊かさを、もう一度見つめなおして生きたいと

思った一日でした。

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