藤沢から徒歩4分小さな呉服屋さんがあります。戸を開けると細長い店の奥からひょいとおかみさんが顔を出します。

遊撃手のように、車でブンブン仕事をしている私には、安全基地のように感じられ、ほっとできる場所です。なんとなく居着いてしまった猫のように、何時間もいたりします。一応何かしらの用事があって来てはいるんですが。ほとんど出入り自由の猫。にゃー。

数少なくなった貴重な町の呉服屋さん。

暗号のような、禅問答のような注文にも、女将は的確に応えます。

訪問着の着物も帯も決まってないけど、レンタルに使いやすい帯揚げ帯締め3セットずつ、長襦袢以下小物一式つけて、幾らで。出来れば草履バッグも、という無茶ぶりも応えてくれます。

何日にどこどこへこういう用事で、着物来ていきたいが、にあう着物選んでね。ヘアメイク着付けつきで。という、所謂マルっとお任せレンタルとか。

化繊の着物だけど、高級感のある帯と小物の取り合わせにしてね。2セットくらい欲しいな。

とか。無茶苦茶言ってますね。あたし。

でも、ちゃんと、理にかなった、いいものが、ささっと出てくるんです。魔法のよう。

で、たまに、タンスを覗いて女将これはハウマッチ。と聞くと、非売品よー。と帰ってくる。売るきないんだな。とタンスを閉める。

大量の着物がまた入荷したの、たーすーけーてー。とメッセージが。また、増えてる着物が。律儀に買い取るのはいいですけど、おかみさん大丈夫?と聞くと。

昔からの馴染みで高いお品を買ってくれる人もいるの。そのお陰でなりたってるわ。と。

すると、ああ、そうか。学生時代に大好きだったアンティークショップってこういう感じだったなあと。調度細長いお店で。毎日のように眺めにだけ来る、学生を黙って、見過ごしてくれていたっけな。

半ば小さな美術館のように、美しい品に見とれていた。そういうところは、何も変わらないものだと感心する。

何でもネットの世界でわかった気になるけど、目で見て触れて、言わば、共に生きる仲間になるもの。タンスでいかされずに、忘れ去られることがないように、女将は慎重に着物と人を引き合わせているのだと思います。