2020年1月21日裏地は語る
着物の裏地は時に、雄弁に物語ります。表に出ない誂えた人の心を表すものでもあります。
お嬢様の成人式の後撮りにお着物を皆様でお召いただくご提案をさしあげたのですが、お母様のお着物を決めるのを迷い。そう言うときは羽織っていただくと答えがでるのですが、羽織った時に何かそういえば文字が書いてあったような気がするとおっしゃったのです。臈纈の凝った染めは上品で、染め自体が万葉がなのように見えます。確かに文字のように見えますね。と申しながら、下前をみますと、お名前が書いてありました。先々に着るときの為にお祖母様が、誂えて下さったのです。私達は、着物を通して、お祖母様の心に出会います。変わらずに見守ってくださる方々の存在に改めて気づかせて下さるのです。
臈纈を和歌に見たてているかもしれませんね。と裏を返すと、ハ掛けに美しい友禅の花が施されていました。
余りにも美しい繊細な花にこころ奪われて、暫し眺めていると、表と共の色に染めらた裏地かに、織りで和歌が浮かび上がるように施されていました。
「人はいさ心も 知らず ふるさとは花ぞ昔の香ににほひける」
奇しくも私達は、人の変心について、話していたところでして(笑)余りのタイミングの良さに、着物の結ぶ不思議なご縁を感じました。
心に咲く美しい花を大切に、生きていきなさいと言われた気がしたのです。
裏に施された小さな美しい花。目立たずとも、誰にも気づかれずとも、あるいは、忘れさられていても、咲き続ける心の故郷にある花。