2017年6月12日着物を巡る物語
私は殆どのお仕事が、お客様のお宅に伺い、お着付けをさせていただく形のため、色々な着物に纏わる素敵なエピソードを聞かせていただいています。思い出が沢山詰まった着物や、新しく作られたものも、深い思いが込められていて、どのかたのお着物も素晴らしく、美しく。こんなに美しい着物のもつ物語を沢山集めて、私の胸に留めるだけでなく、広く色々な方に着物の魅力を伝えていけないだろうかと、考えるようになりました。特別な人の話ではなく、普通の人々の大切な着物の物語を。それこそ、一生涯にわたって一つずつ描いて行きたいのです。ご協力いただけるかたは、是非ご一報いただけたらと存じます。
古い話ではございますが、石井家はともうしますと。
主人の祖母が、和裁職人でありその仕事ぶりを、結婚当初から義母から聞かされていました。主人は俺は着物着ないよという結婚当初からの宣言通り。結婚式以来、着てくれたことはありません。(笑)。着付け師の夫としては、残念な話でありますが。新婚時に、夫婦で着物を着て出掛けてる人を羨ましく思わなかったかというと嘘になりますが。今さら恨み言を言うつもりはないのですが。(笑)言ってるかしら!?言ってますね!その分なんとなく義父が正月には決まって着ていました。お世話になったかたから頂いた大島を毎年着ていてニコニコ嬉しそうに義母の作るお節を食べていました。営業妨害夫とも言える、主人ではありますが、長いこと、祖母が作ってくれた半纏をずっと着用しています。ボロボロになってもなぜか着ている。新しいもの好きなはずなのに、直してでも着るのです。それこそ大学受験だか何だかの年に作ってくれたものの二代目の半纏だそうで、年を取って和裁をしなくなってからも、俺のだけは作ってくれたのだと、自慢げに話しておりました。古い格子の木綿生地の着物をほどいて作ったとおぼしきその半纏は軽くとも温かくなかなか深い味わいがある。祖母も10年ほど前になくなりましたが、彼女の生きた足跡は、親戚中が着た振り袖、注染の浴衣などに残され、未だに現役でバッチリ働いてくれています。力布もつけられた丁寧な仕事ゆえに、くたびれた感じが未だにしません。また手製の腰ひもは、古い布をほどいて作られた、だてじめと、腰ひもの中間をいく太さをいく便利なもので、モスのため、滑らず、胸紐と、だてじめ両方の機能をあわせ持つ優れもの。祖母の誠実で、確かな仕事はしっかりと生きていて、家族を結びつけてくれているのかな。ありがたいことだと思います。