あちらこちらへと最近は東京に足を伸ばすことも増えましたが、ご近所の方のお支度というのが、元々の需要でしたので、お得意様の、電話口での懐かしいお声をきくと、温かく有り難い気持ちでいっぱいになります。最初は喪服のお支度のお問い合わせに始まり、ご子息様のご結婚、お孫さんの七五三のお問い合わせなど、時の流れの早さと、お電話口のご様子から仲のよい微笑ましいご家族様の姿が浮かんできます。勿論必ずしも私が着付けを担当することができなかったのですが、優れた着付け師の方々に助けられてきました。また、ご依頼主様は、人生の手本にしたいほどに、優しく素晴らしい方で、歩んでこられた道、これから行かれる道を思う時、着物の持つ不思議な縁や、力を感じずにはいられません。

ある方は、七五三の時にお母様として着た着物を数十年振りにお出しになり、帯や帯揚げ帯締めを落ちついたお色目に変えてお着付けいたしました。嫁がれた時に、肩身の狭い思いをさせないようにと、持たせて下さったそうです。お孫さんの高校卒業にお祖母様を囲んで皆様で、お撮りになる。明るい若草色の無地には、可愛い可憐な刺繍。不思議と何の違和感もなく、お似合いになるのです。ご家族様を育んだ店の食堂の中でお着せしましたが、店は何ともいえない温もりがあり、商店街はかつての賑わいは無くなったとおっしゃっていましたが、この温もりではぐくまれていたものに思いを馳せます。

長い時を掛けてつちかわれたものと、若く新しい時代を生きる力。その融合こそが、新たに何かを生み出すことになるのではないか。出てきそうでまだ出てこないけど。(笑)

少し考えてみたいと思います。

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着物の裏地は時に、雄弁に物語ります。表に出ない誂えた人の心を表すものでもあります。

お嬢様の成人式の後撮りにお着物を皆様でお召いただくご提案をさしあげたのですが、お母様のお着物を決めるのを迷い。そう言うときは羽織っていただくと答えがでるのですが、羽織った時に何かそういえば文字が書いてあったような気がするとおっしゃったのです。臈纈の凝った染めは上品で、染め自体が万葉がなのように見えます。確かに文字のように見えますね。と申しながら、下前をみますと、お名前が書いてありました。先々に着るときの為にお祖母様が、誂えて下さったのです。私達は、着物を通して、お祖母様の心に出会います。変わらずに見守ってくださる方々の存在に改めて気づかせて下さるのです。

臈纈を和歌に見たてているかもしれませんね。と裏を返すと、ハ掛けに美しい友禅の花が施されていました。

余りにも美しい繊細な花にこころ奪われて、暫し眺めていると、表と共の色に染めらた裏地かに、織りで和歌が浮かび上がるように施されていました。

「人はいさ心も 知らず ふるさとは花ぞ昔の香ににほひける」

奇しくも私達は、人の変心について、話していたところでして(笑)余りのタイミングの良さに、着物の結ぶ不思議なご縁を感じました。

心に咲く美しい花を大切に、生きていきなさいと言われた気がしたのです。

裏に施された小さな美しい花。目立たずとも、誰にも気づかれずとも、あるいは、忘れさられていても、咲き続ける心の故郷にある花。

きっと素晴らしい装いになるでしょう。楽しみです。IMG_20200120_182127

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